東洋経済オンライン 6月20日(水)10時50分配信
関西の光回線市場で台風の目に |
関西地方で光回線争奪戦が熱を帯びている。台風の目となっているのが関西電力系のケイ・オプティコム(以下、ケイオプ)だ。首都圏では耳慣れない企業だ が、関西ではテレビCMを見ない日はない。関電の信用力をバックに値下げ攻勢でNTTの牙城を切り崩し、業界地図を塗り替えようとしている。
通信事業を新たな柱に、という関電の戦略を受け、100%子会社として2000年に誕生したケイオプ。当時、月額1万円程度で提供していたNTTに対 し、格安の6300円で対抗。さらに05年には4900円に一気に値下げし、業界を震撼させた。11年度末には加入件数が130万を突破。売上高1592 億円、経常利益186億円を稼ぎ出すまでに成長しており、前期2400億円超の巨額赤字に沈んだ関電にとってまさに虎の子だ。
関係者によると、年間の設備投資額は約50億円。親会社の関電からインフラを借りることで安く提供できる。一方で、新興企業の知名度の弱さをカバーしよ うと、浮いた費用で有名タレントを使ったCMなどを大々的に投入し、NTT並みに知名度を上げた。さらに先日の新サービス発表会は東京のホテルで開催し た。サービス地域外で会見するなど全国での知名度向上にも貪欲だ。
「NTTをことさら意識して値下げしたわけではない。割安のADSLからどうやって光に切り替えてもらうかに重点を置いてきた」(ケイオプの藤野隆雄社長)とするが、実際はNTTには大打撃だ。
NTT西日本は光回線サービス「フレッツ光」をNTT東日本より約500円安い月額4970円に設定。NTT東が今年開始した2年縛りの割引もすでに05年から導入している。「東と同じでは関西では戦えない」(NTT西)と必死だ。
それでも、NTT西の11年度の販売実績は目標85万に対し59万と苦戦。滋賀県と奈良県ではケイオプにシェア首位の座を奪われた。NTTグループでも 関西のシェア低下が響き、フレッツ光の12年度販売目標を140万~150万に設定。毎年上積みしてきた目標数値を初めて引き下げた。
「割引サービスは必ず関西からスタートさせる」と話すのはケーブルテレビ最大手のジュピターテレコム(JCOM)。JCOMもNTT西と同様、ケイオプ 対策で関西独自のサービスに力を入れる。他地域では月額525円を課金する無線LANへの接続を関西では無償提供、ネット接続でも割安のプランを設定す る。
ケイオプを敵ではなく味方にしたのがKDDIだ。JCOMに31%を出資する大株主でありながら、ケイオプとも提携。猛反対したJCOMを押し切り、勢いのあるケイオプとauのスマートフォンとの組み合わせによる割引策を講じた。
■関電ブランドで風評が
ただ、関電の原発再稼働問題もあり、今後の行方は不透明だ。
あるケイオプの営業社員は「これまで営業先で『関西電力グループのケイ・オプティコムです』と名乗っていたが、最近は『関西電力』の部分は省略するよう になった」と話す。関電グループであることが逆に一部では“風評被害”を招くようになっているからだ。関電出身である藤野社長は「関電は通信事業を柱とし て考えているので当面は関電傘下でやっていくが、長期的にはわからない」と話す。
一方、ライバル会社からも「地域独占の電力会社が豊富な資金力を背景に通信事業を行うこと自体に問題がある」との声が聞こえる。過去には東京電力が通信事業を電力業界に近いKDDIに売却した。今後、ケイオプが売りに出される可能性は否定できない。
(麻田真衣 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2012年6月9日号)
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